キャラ紹介
クラン・サンチェス
今は廃村となった〝太陽の村〟出身の少女。聖剣鎖の所持者。
ロッキー・ウェンテスタ
過去にクランの従者だった少年。今は、反聖剣勢力に所属し、クランの命を狙っている。かつては、有名なウェンテスタ家の次男として生きていた。
ウィンタ・エン
今はクランの師匠となっている青年。その正体は聖剣翼の所持者。クランを妹のように可愛がっている。
ティール・ウェンテスタ
ロッキーの兄でウェンテスタ家の五代目当主となるはずだった青年。クランの従者だった。ロッキー、シエラ、クランが好きだった。
シエラ・ロータエ
クランの従者だった少女。かつて、飢え死にしかけていたところ、クランの父フリックに助けられる。クランのことを大切にしていた。
フォール・エン
ウィンタの父。かつては最強の剣士と呼ばれていた。クランの父の親友。
ローレイ・サンチェス
クランの母。病弱で外に出ることができない。そのため、クランとは長く過ごせなかった。
フリック・サンチェス
クランの父。すでに戦死している。
鎖
聖剣鎖に宿る少女の魂。その正体は、いまだ不明である。
翼
聖剣翼に宿る青年の魂。鎖と同じく、その正体は不明。ジェードの瞳を持つ。
アジェン・ナーウィル
地球救助隊を統べる男。その実年齢は詳しくは知られていないが、数百歳といわれる。
***
プロローグ 〝太陽の村〟
…………クラン・サンチェス
私は、聖剣鎖に刻まれた文字を手でさすった。
鎖は夕陽に晒され、淡いオレンジに輝いていた。
…………クラン・サンチェス
今度は、声にしてみた。それと同時に何かがあふれ出しそうになり、私は目を閉じた。
私には、絶対にこの名は捨てられない…。
夕陽のせいで残った深緑色の残像は静かにその姿を消していく。…そうして、私はまた目を開く。そこにある村が、私の眼下には広がっていた。
ガンゴーン ガンゴーン
寂しげに鐘が鳴る。その音に耳を傾ける命は、この村にはなかった。人も草も水も虫も動物も…。ここには存在していなかった。この村は死んでしまったのだ。
村は、かつて、その太陽の輝く美しさから〝太陽の村〟と呼ばれ栄えていた。しかし、八年前の四月二十六日。…たった一日で、家も人も何もかもを失ってしまった。あの日に、全てが無くなってしまったのだ。……それから、私は、何度この村を訪れただろうか……。
『死ねよ』
耳元で恐ろしい声がした。
『…死んじまえよ…。お前が…。お前さえいなければ……。皆、幸せだったのに………っ‼』
恐ろしくて、私は耳をふさいだ。それでも声はやまない。
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
幾万もの人間の声が、脳内を駆け回って、私は叫びそうになった。気が狂ってしまいそうなおぞましい声に、私は耳をふさぐ。…でも、声は鳴り止まない。
………あの日から、この声は私について回った。…忘れたことなんてなかった。
苦しくて、苦しくて、何度も死にたくなった。
…自分で首を絞めたことだってある………
それでも、私は死んではいけない…。生き続けなくちゃいけない……。
一層大きくなる声に、私の意識は遠のき始めていた。正気を失ってしまう…。ここは崖だから、苦しさのあまり、落ちてしまうかもしれない。
襲い来る声に、私は泣き叫んだ。
………許してはくれない…。きっとそれは永遠に………。
「クランッ‼」
その時、誰かの叫び声が脳内に響いた。そうして、その声の主は、私の肩を激しく揺さぶった。私は、現実に引き戻された。
いつもやさしく私を呼ぶ声が、険しい顔をして私を見ていた。
「…………っ…師…しょ……ぅ…。」
渇いた喉から、微かな声が出た。
私の前には、師匠が……ウィンタ・エンが立っていた。その安心感に、私の膝は、言うことを聞かずに折れた。急に倒れこむ私に、驚いたように師匠は体勢を変えた。
「……大丈夫か……………。」
「……………はぁ………はぁ………」
汗と涙が混じって地面に堕ちた。
私は、ようやく焦点を師匠に合わせることができた。
「…師匠っ……」
怖かった。
死ぬような感覚に陥って、体はいうことを聞かない。私は、師匠の腕の中で泣き崩れた。
…今、私は死のうとしてしまったのだ。足が空を切った感覚があった。
落ちる既のところで師匠が私を地に引き戻したのだった。
脳内を駆け回っていた声が消えて、落ち着いてきた脳は、徐々に状況を飲み込んでいく。それと同時に私の体は恐怖で震えだす。
「……クラン………」
私は堪えきれなくなって、師匠の体に縋り付いた。少し驚いた様子だけれど、師匠は、私の様子に何も言わない。
…師匠は私を責めなかった。
いつもなら、文句のひとつでもとんできそうなのに……。
それ程にまで、私がいつもと違ったのかもしれない。………しばらく泣き続けて、私は、師匠から離れた。涙をぬぐって、私は師匠に向き直る。
「すみません……」
私は、謝ることしかできなかった。
「…ここには、来るなと言っておいたのに。
少し控えめな文句がとんでくる。
「すみません……」
「…謝らなくてもいい………。…でも、何で、いつもここに来る……?」
「それは……」
私は、師匠から目を逸らす。……本来なら、私はここに来るべきではない。……師匠の言うとおり。
「つらいのが分かってて……どうして…。」
悲しそうに私の顔を見る師匠に、私はまた泣きそうになる。それに気づいたのか、師匠は私を抱きしめた。急すぎて、私は動揺する。
「……っ師…師匠!?」
「もういい。…泣くな…。」
「…でも……」
こんなことされたら、もっと涙が溢れてしまう。
………私は、幸せになっちゃいけない……。許されちゃいけない……。
なのに……。
私は、師匠を突き放す。
「ダメですっ!…私に……。私に優しくしないで……っ!…師匠……っ…私…許されちゃ…いけないんですっ‼私に…優しくされる資格なんてっ………もう、残ってないっ‼」
「クラン…。」
「…来ないでっ!……師匠は、私を責めたりしないのは知ってますっ!………でも、……ここは…〝太陽の村〟は!…私を許してはくれないっ‼」
私は、一歩後ろへさがる。
…背中で夕陽が燃えていた。……まるで、私の罪を責めるような…真っ赤な血のように……。私は、眼下の村に目を向けた。
「………私が…。全て奪った……っ。殺した…」
乾いた笑いを漏らして私は言う。……きっと、私は正気じゃ無かったんだと思う……・…。
「…クラン……っ!……馬鹿な事を言うな!」
「……馬鹿…?違う!…真実です‼この村は、私が壊した…っ!」
〝太陽の村〟…。そこはかつて、私の故郷だった。八年前のあの日に、血の海となるまでは――。
「師匠…。『死ね。』って……いつも、私の頭の中に響くんです……。…その通り…だと思います……。村は…村人は……誰一人、私を許さない…っ!本当は、あの日、私も命を絶つべきだった――――!」
そうだ。あの日、私は死のうとした…。全てを失って、私に生きる理由なんか始めから無かったんだ……。
「違う!…クラン!……それは間違ってる!」
青褪めた師匠の顔は、夕陽に照らされていてよく見えない。師匠が私に手を伸ばしてくる。
「戻って来いっ!クランっ!…それ以上後ろに行ったら……落ちるっ!」
そう言われて、私は後ろを向く。
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